共同親権など令和8年4月から施行される民法の改正について
2026/03/15
令和6年(2024年)5月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)が成立し、同月24日に公布されました。この改正法は、令和8年(2026年)4月1日に施行されます。
今回の改正は、父母の離婚等に直面する子の利益を確保するため、子の養育に関する父母の責務を明確化するとともに、親権・監護、養育費、親子交流、養子縁組、財産分与等に関する民法等の規定を包括的に見直すものです。
本記事では、改正の要点を項目ごとに整理します。
1. 親の責務に関するルールの明確化
改正法では、婚姻関係や親権の有無にかかわらず、父母が子に対して負う責務が明文化されました(新民法817条の12等)。主なポイントは以下のとおりです。
(1)子の健全な発達を図る責務
父母は、子の心身の健全な発達を図るため、子の人格を尊重するとともに、子の年齢及び発達の程度に配慮して養育しなければなりません。また、子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養する義務を負います。
(2)父母間の人格尊重・協力義務
父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、子の利益のために互いに人格を尊重し協力しなければなりません。以下のような行為はこの義務に違反する可能性があります。
| 義務違反となりうる行為 |
|---|
| 父母の一方から他方への暴行、脅迫、暴言等の心身に悪影響を及ぼす言動や誹謗中傷 |
| 別居親による同居親の日常的な監護への不当な干渉 |
| 特段の理由なく他方に無断で子の住所を変更すること |
| 取り決められた親子交流を正当な理由なく拒否すること |
※ DV・虐待から逃れるための行為は義務違反にはなりません。違反した場合、親権者の指定・変更の審判や親権喪失・停止の審判等において考慮される可能性があります。
2. 離婚後の親権に関するルールの見直し(共同親権の導入)
(1)選択的共同親権制の導入
従来の民法では、離婚後は父母の一方のみを親権者と定めなければなりませんでした(単独親権)。改正法により、離婚後も父母双方を親権者とする「共同親権」を選択できるようになります(改正民法819条1項)。共同親権を義務化するものではなく、「選択的共同親権制」です。
(2)親権者の定め方
協議離婚の場合:父母の協議により、父母双方またはその一方を親権者と定めます。
【実務上の重要な変更】離婚届の受理要件の緩和:従来は、協議離婚の届出時に必ず親権者を1人に定めなければ離婚届は受理されませんでした。改正後は、「親権者の指定を求める家事審判または調停の申立て」がされていれば、親権者が未定であっても離婚届が受理されるようになります。これにより、親権者の決定を待たずに離婚を成立させることが可能となり、DV事案等で離婚を急ぐ必要がある場面での実務的な選択肢が広がります。
裁判離婚・協議不成立の場合:家庭裁判所が、子の利益の観点から、父母双方またはその一方を親権者に指定します。以下の場合には、裁判所は単独親権としなければなりません。
| 単独親権とすべき場合 |
|---|
| 子への虐待のおそれがあるケース(身体的なものに限らない) |
| DVのおそれがあるケース(身体的なものに限らない) |
| 父母間の協議が調わない理由その他の事情を考慮し、親権の共同行使が困難なケース |
(3)共同親権における親権行使のルール
父母双方が親権者である場合、親権は共同して行使するのが原則です。ただし、以下の例外が明文化されました。
単独行使が可能な場合:①監護教育に関する日常の行為(食事・日々の生活・習い事等)、②子の利益のため急迫の事情があるとき(DV・虐待からの避難、緊急の医療行為、入学手続の期限が迫っている場合等)
裁判所による親権行使者の指定:進学先や大きな手術など特定の重要事項について、父母の意見が対立した場合、家庭裁判所が親権行使者を定めることができます。
(4)既に離婚している場合の取扱い
改正法の施行により自動的に共同親権に変更されることはありません。ただし、施行後は、子自身やその親族の申立てに基づき、家庭裁判所が子の利益のために必要と認めた場合に、単独親権から共同親権への変更が認められる可能性があります。なお、虐待やDVのおそれがある場合、共同親権への変更は認められません。
3. 養育費の支払確保に向けた見直し
養育費の不払い問題に対応するため、今回の改正では複数の重要な制度が導入されます。
(1)養育費債権への先取特権の付与
養育費の請求権に「一般先取特権」が付与されます(改正民法306条、308条の2新設)。これにより、従来は公正証書や調停調書等の「債務名義」がなければ差押えができなかったところ、父母間で作成した養育費の取決め文書(私文書)に基づいて、直ちに差押えの申立てが可能になります。
【実務上の注意】養育費は必ず「書面」で取り決めてください:先取特権に基づく差押えを利用するためには、養育費の金額・支払時期等を定めた文書(私文書で可)が必要です。口頭の約束だけでは先取特権を行使することができません。協議離婚の際には、養育費の額・支払方法・支払期間等を記載した合意書を必ず書面で作成し、双方が署名・保管しておくことを強くお勧めします。もちろん、公正証書で作成すれば、先取特権とは別に従来どおり債務名義としての効力も得られるため、より確実です。
先取特権の優先順位は、民法306条において雇用関係に次ぐ第三順位に位置づけられます。先取特権が付与される養育費の上限額は、法務省令により子1人あたり月額8万円とされています。
【既に離婚している方へ】先取特権の遡及適用:改正法施行前に養育費の取決めがなされていた場合でも、施行日(2026年4月1日)以後に発生する養育費については先取特権の適用があります。つまり、既に離婚している場合でも、施行後に支払期限が到来する養育費の不払いについては、債務名義なしでの差押え申立てが可能になります。養育費の取決め文書(合意書等)を保管しておくことが重要です。
(2)法定養育費制度の新設
離婚時に養育費の取決めをしなかった場合でも、法律上当然に一定額の養育費を請求できる「法定養育費」の制度が創設されます(改正民法766条の3)。法定養育費の額は、法務省令により子1人あたり月額2万円と定められています。
【重要】法定養育費はあくまで「暫定的・補充的」な制度です:月額2万円という金額は、父母の個別の収入・資産や子の年齢・学費等の事情を一切考慮しない画一的な最低限度の額であり、養育費の標準額や下限額を定める趣旨のものではありません。子の健やかな成長を支えるためには、裁判所が公表する「養育費算定表」等を参考に、各家庭の実情に応じた適正な額を父母の協議または家庭裁判所の手続(調停・審判)により取り決めることが不可欠です。法定養育費に満足せず、早期に適正額の取決めを行うことが、子の利益確保という改正法の趣旨にかなう対応です。
法定養育費にも先取特権が付与されるため、不払いの場合は差押えの申立てが可能です。
【重要】法定養育費の適用対象:法定養育費は、改正法施行後(2026年4月1日以降)に離婚したケースのみに適用されます。施行前に離婚した場合は、たとえ施行後であっても法定養育費を請求することはできません。施行前に離婚して養育費の取決めをしていない方は、改めて父母の協議や家庭裁判所の手続(調停・審判)により養育費の額を取り決める必要があります。
(3)裁判手続の利便性向上
養育費に関する裁判手続において、家庭裁判所が当事者に対して収入情報の開示を命じることができるようになります。また、民事執行手続では、地方裁判所への1回の申立てで、財産開示・給与情報の提供・差押えの各手続を行うことが可能になります。
4. 親子交流に関するルールの見直し
(1)用語の変更
従来「面会交流」と呼ばれていた制度は、電話やメール等の多様な交流方法を含む趣旨から「親子交流」という用語に改められました(改正民法766条1項)。
(2)親子交流の試行的実施
家庭裁判所の手続中に、親子交流を試行的に行う制度が新設されました(人事訴訟法34条の4、家事事件手続法152条の3)。家庭裁判所は、子の心身の状態に照らして相当であること等を考慮した上で、試行的実施を促します。
(3)婚姻中別居の場合の親子交流
婚姻中に父母が別居している場合の親子交流についても、離婚後と同様に、父母の協議で定め、協議が成立しない場合は家庭裁判所の審判等で定めることが明確化されました(改正民法817条の13)。
(4)父母以外の親族との交流
子の利益のため特に必要があると認められるときは、家庭裁判所が、祖父母等の父母以外の親族と子との交流を実施するよう定めることができるようになりました。申立ては原則として父母が行いますが、父母の一方が死亡・行方不明の場合等には、祖父母・兄弟姉妹・過去に子を監護していた親族等が自ら申し立てることも可能です。
5. 財産分与に関するルールの見直し
(1)請求期間の伸長
財産分与の請求期間が、従来の離婚後2年から5年に伸長されます(改正民法768条2項)。
(2)考慮要素の明確化
財産分与の目的が各自の財産上の公平を図ることにあることを明らかにした上で、考慮要素として「婚姻中に取得・維持した財産の額」「財産の取得・維持についての各自の寄与の程度(原則2分の1)」等が例示されました(改正民法768条3項)。寄与の程度には、就労のみならず家事労働や育児の分担も含まれます。
(3)裁判手続の利便性向上
家庭裁判所が当事者に対して財産情報の開示を命じることが可能となり、手続の利便性が向上します。
6. 養子縁組に関するルールの見直し
養子縁組後の親権者が誰になるかが明確化されました。実親の一方が再婚し、再婚相手と子が養子縁組(いわゆる連れ子養子)をした場合、養親とその配偶者である実親が親権者となり、他方の実親は親権を失うことになります(改正民法818条3項)。
また、15歳未満の子の養子縁組について父母の意見が対立した場合に、家庭裁判所が調整するための手続が新設されました(改正民法797条3項)。
7. 改正の要点まとめ
| 改正項目 | 要点 |
|---|---|
| 親の責務 | 婚姻関係・親権の有無を問わず、子の養育・扶養義務を明文化。父母間の人格尊重・協力義務も規定 |
| 離婚後の親権 | 選択的共同親権制を導入。離婚届の受理要件を緩和(審判・調停申立て中は親権者未定でも受理可)。日常行為・急迫事情での単独行使を明文化。特定事項については裁判所が親権行使者を指定可能 |
| 養育費 | 先取特権の付与(上限:子1人月額8万円/施行前離婚でも施行後発生分は適用)、法定養育費の新設(子1人月額2万円/施行後離婚のみ)、収入情報開示命令、民事執行手続の一本化 |
| 親子交流 | 用語を「面会交流」から「親子交流」に変更。試行的実施制度の新設。婚姻中別居時の親子交流を明文化。祖父母等との交流規定を新設 |
| 財産分与 | 請求期間を2年から5年に伸長。考慮要素を明確化(寄与の程度は原則2分の1)。財産情報の開示命令制度を導入 |
| 養子縁組 | 連れ子養子縁組後の親権者を明確化。父母の意見対立を調整する裁判手続を新設 |










