野呂伸一法律事務所 弁護士野呂伸一

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相続土地国庫帰属制度について

2026/03/22

「相続した土地、どうしよう。売れないし、管理も大変で……」という相談が増えています。北海道では特に、親から引き継いだ山林・原野・農地が「お荷物」になっているケースが珍しくありません。

そのような方に知ってほしいのが、相続土地国庫帰属制度です。令和5年(2023年)4月から申請受付が開始されたこの制度は、一定の要件を満たした土地を国に帰属させることができる仕組みです。これにより、「不要な土地だけを手放す」という、これまで現実的ではなかった選択肢が生まれました。


そもそもなぜこの制度ができたのか

日本全国で「所有者不明土地」の問題が深刻化しています。相続のたびに登記が放置され、誰が所有者かわからない土地が増え続けてきました。これが公共事業や土地利用の大きな障害になっています。

その背景にあるのが、「土地を相続したくない場合の選択肢がない」という問題でした。従来の制度では、不要な土地だけを放棄することはできず、相続放棄をすれば預貯金や不動産など全財産を手放すことになります。その結果、「仕方なく相続するが、登記も管理もしない」という状態が生まれ、所有者不明土地を増やす悪循環に陥っていました。

こうした状況を打開するために創設されたのが、相続土地国庫帰属制度です。相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)と並び、所有者不明土地問題への対策の柱として位置づけられています。相続登記の義務化では、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記しなければ10万円以下の過料の対象となります。「すぐに相続登記ができない」という場合には、より簡易な相続人申告登記(令和6年4月創設)を先行して行い、義務違反を回避する方法もあります。相続土地国庫帰属制度はこうした義務化への対応と合わせて検討することが重要です。


誰が申請できるのか

申請できるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈)によって土地を取得した方です。

  • 生前贈与や売買で取得した土地は、その取得のみを理由としては申請できません。
  • 制度施行前(令和5年4月以前)に相続した土地であっても、申請の対象となります。
  • 【重要】共有地の場合は、共有者全員で申請する必要があります。その共有者の中に、相続または相続人への遺贈によって持分を取得した方が含まれていれば、制度の対象となる可能性があります

【補足】売買で持分を取得した共有者がいても申請できる場合があります
共有持分の取得原因は共有者ごとに異なっていても構いません。共有者のうち1人でも相続・遺贈で取得した人がいれば、売買等で持分を取得した共有者を含む全員での共同申請が認められています。たとえば、兄が相続で取得し、弟が換価分割の際に売買で一部持分を取得しているような場合も、全員で申請できます。

実務ポイント:共有者の中に「申請したくない」という方がいると制度を利用できません。共有者全員が納得しているかを事前に確認することが重要です。


国が引き取れない土地の代表例

相続土地国庫帰属制度は、「どんな土地でも引き取ってもらえる」制度ではありません。通常の管理に過大な費用や労力がかかる土地は、対象外とされています。

  • 建物がある土地:空き家や倉庫などの建物が残っている土地は対象外です。申請するには、原則として事前に解体・撤去する必要があります。
  • 境界が不明確な土地:隣地との境界について争いがある土地や、境界が特定できない土地は申請できません。
  • 管理に著しい負担がかかる森林:手入れがされておらず、通常の管理に多大な費用や労力を要すると判断される人工林などは、不承認となる可能性があります。

上記のほか、申請の段階で却下される土地・審査で不承認となる土地の主なケースを以下の表に示します。

申請の段階で却下される土地(絶対的要件)

却下される土地の類型 北海道での具体例
建物のある土地 空き家・物置・農業用倉庫が残っている土地
担保権・使用収益権が設定された土地 抵当権が残ったまま、賃借権が設定されているなど
他人が使用中の土地 農地として第三者に貸している、私道として使われているなど
土壌汚染された土地 工場跡地、ガソリンスタンド跡地など
境界が明らかでない土地 境界杭がない、隣地所有者と境界争いがある土地

審査で不承認となる土地(実質的要件)

申請は受け付けられても、審査の結果不承認になる主なケースです。

不承認となる土地 注意が必要な具体例
急崖(勾配30度以上・高さ5m以上)がある土地 急斜面の山林、崖に接した土地
地上に撤去困難な工作物・樹木などがある土地 放棄された農業施設、大量の倒木がある山林
地下に除去困難な有体物がある土地 廃棄物が埋まっている土地
隣地との争訟によらなければ管理できない土地 通行権が争われている袋地など
国による追加整備が必要な森林 市町村森林整備計画に適合した造林・間伐・保育がなされていない人工林、林道が遠く管理が不可能な奥地の山林
帰属後に国が金銭債務を負う土地 農業振興地域の農用地区域内で義務が生じる土地など

北海道の山林・原野に多い不承認パターン:
法務省の統計でも、森林の不承認理由として「国による追加整備が必要な森林」が最多です。この判断基準は市町村森林整備計画への適合性にあります。計画に定められた造林・間伐・保育が実施されていない人工林、林道から遠く間伐作業が事実上不可能な奥地の山林は、「追加整備が必要」と判断されるリスクが高くなります。北海道の針葉樹人工林で長年手入れがされていない山林は、特にこの要件に引っかかりやすい点に注意が必要です。


費用:1万4000円 + 負担金

申請にあたっては、土地1筆ごとに1万4000円の審査手数料が必要です。この手数料は、申請が不承認となった場合でも返還されません。「まず申請してみよう」と気軽に考えると、無駄な出費になることもあります。

申請が承認された場合には、土地を国に帰属させるための「負担金」を納付します。負担金は「国有地の種目ごとの10年分の管理費用相当額」として計算され、原則として20万円ですが、土地の種類によっては例外があります。

土地の種目 負担金の目安 例外(面積に応じた算定)
宅地 一律20万円 市街化区域・用途地域内は面積で算定
農地(田・畑) 一律20万円 農用地区域内は面積で算定
森林 面積に応じて算定 一律にはならない(必ず計算が必要)
その他(原野・雑種地等) 一律20万円 なし

北見・オホーツク管内の農村部は、市街化区域・用途地域の指定がない地域がほとんどです。そのため、宅地はほぼ一律20万円で済むケースが大半となります。

【要注意】農地は「農用地区域内か否か」で負担金が大きく変わります
農地(田・畑)は、市街化区域外であれば一律20万円と思われがちですが、農業振興地域の農用地区域(農振農用地)内に指定されている農地は面積に応じた算定となります。北海道の農村部では農用地区域に指定されている農地が多く、面積が大きいほど負担金も増加します。たとえば農用地区域内の田・畑1,000㎡では負担金が110万円を超えるケースもあり、「20万円で済む」と思い込むと大きな誤算になります。
農地を申請する前に、市町村の農業委員会または農林水産課で農用地区域の指定状況を必ず確認してください。

森林については面積によって異なりますが、たとえば比較的小規模な山林でも数万円〜数十万円台になることが多く、事前に法務省が公表している負担金自動計算シート(Excelファイル)で確認することをおすすめします。

隣接する同種の土地は「合算申請」で節約できる:
同じ種目(例:農地と農地)の土地が隣接している場合、2筆以上をまとめて1筆分の負担金で申請できる特例があります(政令第6条)。北海道でよくある「隣接する農地や原野を複数筆相続した」ケースで有効に活用できます。

その他にかかる費用

申請書類の作成を弁護士・司法書士・行政書士に依頼する場合、10万〜30万円程度の報酬がかかります。また、境界が不明確な場合は確定測量が必要で、30万〜80万円程度が相場です。事前の法務局相談は無料なので、まず相談から始めることが費用の無駄を防ぐ一番の近道です。


申請の流れと審査の実情

制度の利用から土地が国に移転するまでの流れは以下のとおりです。

  1. 法務局への事前相談(予約制) — 土地の状況を整理し、制度の利用可否を確認
  2. 申請書類の準備・提出 — 土地が所在する都道府県の法務局本局へ(窓口または郵送)。北見管内なら札幌法務局本局が申請先
  3. 書面審査・実地調査 — 法務局担当官が書類を確認し、現地調査も実施
  4. 審査結果の通知(承認または不承認)
  5. 負担金の納付 — 通知到達翌日から30日以内に金融機関(ゆうちょ・農協等を含む)で納付。期限を過ぎると承認が失効
  6. 国庫帰属の完了 — 所有権移転登記は国が行うため申請者は不要

審査にかかる標準的な期間は約8か月とされています。ただし実際にはそれ以上かかることもあります。法務省が公表している最新の統計によると、申請件数に対して帰属が認められた件数は着実に積み上がっており、審査完了分のうち約9割が承認されているとされています。一方で取下げ件数も一定数に上ります。審査が長期化していることもあり、申請中の案件も多く残っているのが現状です。

取下げ件数の多さが示すこと:
統計では、審査途中での「取下げ」件数も相当数に上ります。取下げの理由として、自治体や国機関による土地活用が決定したケース、隣地所有者からの引き取り申し出があったケースなどが報告されています。「申請を検討する過程で別の解決策が見つかった」という例も少なくないようです。


北見・オホーツク管内で多い相談パターン

この地域では特に、次のようなケースでこの制度への関心が高まっています。

ケース① 農村部の農地・原野を相続したが農業をしない

北見市や津別町・美幌町などで農業を営んでいた親が亡くなり、農業をしない子世代が農地を相続するパターンです。農地は農地法の制約で勝手に売れず、農業委員会への届出も必要で、放置すれば固定資産税と草刈りコストが毎年かかります。市街化区域外の農地であれば負担金は一律20万円が目安のため、「売るより安く手放せる」選択肢になり得ます。ただし、農用地区域(農振農用地)内の農地は面積に応じた算定になる点を確認してください。

ケース② 遠方に住む相続人が山林を引き継いだ

本州に住む子が北海道の山林を相続したものの、管理できないケースです。山林は固定資産税が低いため放置されがちですが、倒木・不法投棄のリスクが蓄積します。ただし、前述のとおり山林は「国による追加整備が必要」として不承認になるケースが多く、奥地・急斜面・林道なしの山林は申請が通りにくい現実があります。事前に法務局で見通しを確認することが不可欠です。

ケース③ 空き家を解体済みで、更地になった宅地を処分したい

市街地郊外の空き家を解体した後、更地になった土地を売りたいが買い手がつかないケースです。建物を撤去し、境界が明確で担保権もなければ、この制度の対象になり得ます。市街化区域外であれば負担金は一律20万円が目安で、維持管理コストと比較してメリットを判断できます。ただし「直ちに建物の敷地として使用できる」とみなされる市街化区域内の宅地は面積計算になります。

ケース④ 数筆の農地・原野が散在している

農家の相続では、農地が複数の場所に点在しているケースがよくあります。隣接する同種の土地であれば合算申請の特例を使い、2筆分でも1筆分の負担金で申請できます。一方、離れた場所にある複数筆は筆数分の負担金がかかるため、どの土地から申請するか優先順位を考えることが重要です。


申請前に必ず確認すべきこと

この制度を利用する前に、以下の点を整理しておくと、無駄な費用と時間を防ぐことができます。

  1. 建物・工作物の有無:物置・小屋・農業施設も含め、撤去されているか
  2. 境界の明確性:境界杭の有無、隣地所有者との認識の一致
  3. 登記情報の確認:抵当権・地上権・賃借権などの権利がついていないか
  4. 共有者全員の同意:相続人全員が申請に協力する意思があるか
  5. 農地法・農振法の確認:農用地区域内かどうかで負担金の計算方法が異なる
  6. 売却・寄付の可能性を先に検討:近隣農家・自治体・NPOへの寄付や売却が可能なら、その方が費用・手間の面で有利な場合がある

申請先(北海道内の土地の場合):
承認申請書の提出先は、土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局です。北海道内の土地であれば札幌法務局(本局)が申請先となります。相談は全国どこの法務局本局でも可能です(事前予約制)。支局・出張所では申請・相談ともに受け付けていません。


この制度の「使いどころ」をまとめると

相続土地国庫帰属制度は、決して「どんな土地でも手放せる万能な制度」ではありません。要件が厳しく、審査にも時間がかかります。それでも、従来であれば「相続放棄か、仕方なく相続して放置か」しか選択肢がなかった状況に、「要件を整えた上で国に返す」という第三の道が生まれたことの意義は大きいと言えます。

特に北見・オホーツク管内のように、地価が低く、売却も寄付も難しい農地・原野が多い地域にとっては、この制度と相続登記義務化(令和6年4月施行)をセットで理解することが、これからの相続対策の基本になってくるでしょう。

「わが家の土地がこの制度を使えるかどうかわからない」という場合は、まず法務局への無料事前相談からスタートするか、弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。

参考・出典

  • 法務省「相続土地国庫帰属制度について」(moj.go.jp)
  • 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
  • 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(法務省公表の最新統計による・速報値)
    ※審査完了分のうち約9割が承認。取下げ件数も一定数に上る。最新数値は法務省ウェブサイトで随時更新されています。
  • 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)
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