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民事訴訟手続のデジタル化が進んでいます
2026/03/30
「裁判」と聞くと、弁護士が分厚いかばんを持って裁判所に足を運ぶ――そんなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。実は今、日本の裁判制度は大きな転換点を迎えています。令和8年(2026年)5月21日、改正民事訴訟法が全面施行され、民事訴訟手続が本格的にデジタル化されます。
この記事では、弁護士の立場から、民事訴訟手続のデジタル化で何がどう変わるのか、そして一般の方にとってどんな影響があるのかをお伝えします。
何が変わるのか
デジタル化以前の民事裁判では、訴状や準備書面といった書類を紙で裁判所に提出し、期日(裁判の日程)には当事者や弁護士が裁判所に出向くのが原則でした。裁判記録を見たいときも、裁判所の窓口まで行く必要がありました。
改正法の全面施行後は、これらの手続きが大きく変わります。主な変更点は次のとおりです。
訴状や書面の提出がオンラインに
裁判所が運用する「mints(民事裁判書類電子提出システム)」を通じて、訴状・準備書面・証拠書類などをインターネット上で提出できるようになります。弁護士や司法書士が訴訟代理人となっている場合は、このオンライン提出が「義務」になり、紙での提出は原則として認められなくなります。
ウェブ会議での期日参加が拡大
口頭弁論期日もウェブ会議で参加できるようになりました。証人尋問についても、ウェブ会議で行える範囲が広がります。遠方に住んでいる当事者にとっては、裁判所まで出向く負担が大きく軽減されます。
裁判記録の閲覧もオンライン化
訴訟記録が電子化され、裁判所に行かなくても、システム上で閲覧・ダウンロードできるようになります。自宅や事務所からもアクセスできるようになり、情報の確認が非常にスムーズになります。
弁護士の業務はどう変わるのか
弁護士にとって最も大きな変化は、書面提出のオンライン義務化と、「直送(相手方への書面送付)」の電子化です。これまではファクシミリや郵送で行っていた相手方への書面送付も、システム上で行えるようになります。
また、ウェブ会議での期日が増えることで、移動時間が大幅に削減されます。特に、北海道のような広い地域で活動している弁護士にとって、遠方の裁判所まで片道数時間かけて出向く必要がなくなることは画期的です。これは依頼者の方にとっても、弁護士の交通費や日当の負担軽減につながる大きなメリットです。
一般の方が押さえておきたいポイント
手数料の支払いが「電子納付」に
これまで裁判を起こす際は、収入印紙を購入して訴状に貼り、さらに、一部で電子納付の制度が導入されていたものの、「郵便切手」を数千円分、裁判所に預ける(予納する)必要がありました。改正後は、これらの手数料と郵便費用相当額が一本化され、原則として、Pay-easy(ペイジー。税金や公共料金、ネットショッピングの代金を、パソコン・スマホ・ATMから即座に支払えるサービス)による納付となります。煩雑な切手の準備が不要になるのは、非常に大きな変化です。
本人訴訟では、紙での提出も引き続き可能
弁護士をつけずに自分で裁判をする場合(本人訴訟)は、従来どおり紙で書面を提出することもできます。デジタルに慣れている方はオンラインを、そうでない方は紙を、というように選択肢が用意されています。
ウェブ会議で期日に参加できる
裁判所が認めれば、一般の方もウェブ会議で期日に参加できます。仕事の合間や、外出が難しい状況でも裁判の手続きを進めやすくなります。
変更点の早見表
| 項目 | 施行前(現行) | 施行後(令和8年(2026年)5月21日〜) |
|---|---|---|
| 書面提出(弁護士) | 紙・FAX・持参 | mintsによる電子提出が義務 |
| 費用(印紙・切手) | 印紙貼付・切手予納 | 原則としてPay-easyによる電子納付 |
| 期日への出席 | 原則として裁判所へ出頭 | 口頭弁論・証人尋問もウェブ会議が可能 |
| 裁判記録の閲覧 | 裁判所窓口のみ | オンラインで閲覧・ダウンロード可能(施行日以降に提起された事件) |
デジタル化されない手続もあります
今回の改正で「裁判がすべてデジタルになる」と思われがちですが、関わる手続きの種類によって、デジタルの導入スピードや仕組みが異なります。
刑事事件は今回の改正の対象外
刑事裁判は別の法律で改正が進められており、民事訴訟のような全面的な電子化はまだ先の話です。引き続き裁判所への出頭が原則となります。
家事事件・離婚調停はスケジュールが異なります
離婚や相続を扱う家庭裁判所の手続きもデジタル化が進んでいますが、スケジュールが異なります。例えば、ウェブ会議を利用した離婚調停などは、令和7年(2025年)3月から一部先行して実施されていますが、書面提出の義務化などは民事訴訟とは別のタイミングで動いています。
強制執行・倒産手続の全面電子化は令和10年までに
差し押さえなどの「執行手続」や、自己破産などの「倒産手続」については、遅くとも令和10年(2028年)6月までに全面デジタル化される予定です。令和8年(2026年)5月の時点では、まだ紙での申し立てが必要な場面が残ることに注意が必要です。
裁判所への出頭が必要な場面は残る
民事訴訟でも、書証の原本の確認が必要な場面などでは、引き続き対面での対応が行われます。
デジタル化の先にあるもの
民事訴訟手続のデジタル化は、単に紙がなくなるという話ではありません。手続きのスピードアップ、当事者の負担軽減、司法アクセスの向上など、より多くの人にとって裁判が「使いやすい」ものになることが期待されています。









